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今回紹介するのは、小川 糸「ライオンのおやつ」です。私が初めてこの本に出会ったとき、どのような内容の小説なのか、色々と思いを巡らせた記憶があります。
ハートフルな昨日を多く書かれている著書の作品なだけあり、温かい気持ちになれることを願いながら、ページをめくっていった感想を綴っていきます。
麦です。東京都在住の3人家族で賃貸暮らし。0歳の男の子を育児中です。
基本情報
タイトル | ライオンのおやつ |
著者 | 小川 糸 |
出版社 | ポプラ社 |
発売日 | 2019年10月10日 |
ジャンル | 小説・文芸 |
あらすじ
『ライオンのおやつ』は、余命宣告を受けた若い女性、海野雫が、人生の最後の時間を穏やかに過ごすために選んだホスピス「ライオンの家」を舞台にした物語です。
瀬戸内海の美しい島にあるこのホスピスでは、毎週日曜日に入居者が「おやつの時間」として自分が食べたいおやつをリクエストできる特別な時間があります。
雫は、これまでの人生を振り返りながら、ホスピスの他の入居者やスタッフとの交流を通じて、心の安らぎや新しい視点を得ていきます。
彼女は自分の「最後に食べたいおやつ」をなかなか決められませんが、この「おやつの時間」を通じて、命の終わりに向かう心の準備を少しずつ整えていきます。
人生の終わりを迎えるときに何を大切にするのか、人とのつながりや思い出の大切さを考えさせられる心温まる作品です。
感想
人生の最期くらい誰にも気兼ねせず、ひとりの時間を過ごして逝きたい雫の願いと、ホスピスならではのおやつの時間というイベントとの結びつきが、とても丁寧に描かれている作品だと思いました。
子どもの頃誰しも味わったことがあるであろう、おやつが出てくるときの期待感や、食べたときにふわっと広がる幸福感が、文章から伝わってきたのも素晴らしかったです。
物語を読んで掘り下げたいと思ったのは、日常のありがたみ、本当の自分を見つめる強さ、そして「おやつの時間」がある理由の3つ。細かく感想を述べていきます。
日常のありがたみ
物語の序盤は、瀬戸内の美しい景色や、ライオンの家で振る舞われる食事の数々に、雫が癒されるシーンが丁寧に描かれています。
しかし彼女の生活は徐々に病魔に蝕まれていき、今まで当たり前にできていたことが、難しくなってしまうのです。
毎日元気に身体を起こせる、食事や排泄ができる、声に出して相手に気持ちを伝えるなど、当たり前のことを不自由なく行える日常のありがたみを、雫とともに私も感じることができました。
本当の自分を見つめる強さ
作中では、雫が病気になる前の出来事を思い出すような場面が、いくつか登場するのが印象的でした。
コーヒーが好きだったことや、ヨガを習っていたこと、犬を飼いたかったことなどが所々で表現され、ホスピスでの生活と結び付いていきます。
ライオンの家に着いてから、雫はマドンナとの会話やゲストたちとの別れを経て、自分が本当はどうしたいのかという気持ちを大切にしながら少しずつ病気を受け入れていくのです。
自分が本当に好きだったものを思い出すこと、そして本当にやりたかったことを大切にして行動する強さに心を動かされました。
「おやつの時間」がある理由
ライオンの家に「おやつの時間」がある理由。
それは、ゲストにおやつをリクエストするときのワクワク感や、いつ自分のおやつが選ばれるのだろうというドキドキ感を味わってもらうことで、ホスピスでの生活に彩りを与えるためだと考えていました。
しかし、途中から感じ方が変わりました。
それぞれの人生に寄り添ったリクエストに触れることで、相手を思いやったり、自分の生き方を見直してみたりといった機会を作るためにあるのではと、思うようになりました。
そう捉えながら物語を読み進めていくと、この「おやつの時間」が描かれている箇所だけ、何だか文字が柔らかく見えるような、甘い匂いが溢れてくるような、不思議な感覚になります。
印象的な一文
あともう少し。あともう少しだけこの断崖に立っていれば、あっち側の世界へいける。そのタイミングを早めることも、遅らせることも、私にはできない。私にできるのは、ただ、ここでじっと待つことだけだ。
引用:『ライオンのおやつ』小川 糸 著
瀬戸内にあるライオンの家で、波打つ音に耳を傾けている主人公の気持ちが語られたこの一文。
物語の中で、雫は少しずつ近づく死を受け入れる準備をしていくのですが、時には悩み苦しむ様子も描かれていました。
しかし、このシーンでは過去の自分を反省し、改めて死と向き合っているように感じたのです。
決して生きることを諦めるわけではなく、終わりを悟り心をなだめていく、そんな雫の穏やかな表情を想像することできました。
まとめ
生きるとはどういうことか?本当に自分がしたいことは何か?そして、雫がリクエストするおやつは?
1ヶ月という期間でしたが、かけがえのない経験を通して、自分自身を見つめ直す主人公に思わず感情移入してしまいました。
ホスピスの中で雫が出会った登場人物たちの人生にも、ぜひ注目して読んでみてほしい作品です。
・人生や命について考えたい
・感動的で心温まるストーリーが好き
・自分の価値観や生き方を見つめ直したい