就職活動の闇を感じた「六人の嘘つきな大学生」感想

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今回紹介するのは、浅倉 秋成「六人の嘘つきな大学生」です。この本は、表紙のイラストがシンプルに目に入ったことがきっかけで、読みたいと思いました。

私が現在、新しい仕事を探していることもあり、自然と引き寄せられたのかもしれません。

大学生がスーツを着ているイラストから、就職活動がテーマかと予想することはできましたが、気になったのは登場人物たちの表情。どことなく自信に満ち溢れた顔が描かれているのも、何か意味があるのではないかと感じました。

タイトルの「嘘つきな大学生」とはどういうことなのか、6人がどのような関係で何が起きるのか、ワクワクしながら読み進めた作品です。

基本情報

タイトル 六人の嘘つきな大学生
著者 浅倉 秋成
出版社 KADOKAWA
発売日 2021年3月2日
ジャンル ミステリー

あらすじ

『六人の嘘つきな大学生』は、成長著しいIT企業「スピラリンクス」が初めて行う新卒採用の最終選考を舞台にしたミステリー小説です。

最終選考に残った6人の就活生には、1カ月後までにチームを作り上げてディスカッションを行う課題が与えられます。各々の役割を担いながら、互いの才能や特技、性格を尊敬し合い、みんなで内定をもらおうという気持ちで挑んでいました。

しかし、課題が直前に変更。「6人の中から一人だけを内定者として選ぶ」という新たな条件が追加され、少しずつチームの輪が乱れていくのです。信頼していた仲間たちとの関係が崩れる中、6通の封筒が発見され、その中には「●●は人殺し」という告発文が入っていました。

彼らが築いてきた絆は?最終選考のディスカッションの結末は?嘘と罪、そして「犯人」の目的が明らかになっていく物語です。

感想

ここからネタバレを含みます!ご注意ください!

さすが「伏線の狙撃手」という異名を持つ著者なだけあって、張り巡らせた伏線の回収の仕方が秀逸で美しかったです!

とにかくよく作り込まれたミステリー作品で、裏表のある登場人物たちのキャラクター性を読み解きながら楽しく読むことができました。

特に物語を読んで印象に残ったのは、人の本質を見抜く難しさ、事件の真相を受け入れる覚悟、繰り返される就職活動の闇の3つ

それぞれ詳しく掘り下げていきます。

人の本質を見抜く難しさ

物語は波多野視点で展開されていき、彼は5人の就活生と深く関わっていきます。

打ち合わせを重ねるうちに、少しずつ彼らの性格を理解したり、集団の中での自分の立ち位置を把握したりしながら何度も「このメンバーで良かった」と感じるのです。

しかし、そんな仲間意識や信頼関係は、最終選考で起きたある事件を機に崩れ去っていき、次々と暴かれる事実に、波多野は混乱と落胆を繰り返していきます。

最終選考という人生を賭けた場での突然の裏切りや、知りたくなかった出来事を目の当たりにしたときのショックは計り知れません。私なら、自分の無力さと愚かさと色々な感情が交わり最終的に人間不信になってしまうと思いました。

相手がこれまでどんな人生を歩んで、どう感じていたのか、己の想像力の豊かさだけでは補えない、人の本質を見抜く難しさを感じました。

事件の真相を受け入れる覚悟

何度もお話している通り、この物語は最終選考で起きた事件を軸に進んでいきます。加えて、就職活動から8年後に、登場人物たちの「今」を語ったインタビューも絡められているのが特徴。

つまり、数年経ってからも思い出されるほど、印象的な事件だったわけです。

彼らが真相を知り、歳を重ね、振り返ったときに何を思うのか、一人ひとりの視点によって、物事の捉え方が違うことにも驚きました。

そのインタビューには、当時の就活で隠されていた裏の顔もしっかりと描かれているのが、個人的にとても面白いと思いました。

繰り返される就職活動の闇

先程、人の本質を見抜く難しさについて述べましたが、それはディスカッションを行った大学生だけでなく、就職活動全体にもいえることだと思いました。

自分の志望動機だと語りながら、当たり障りのない目標を並べたり、面接で少しでも有利になるために、興味のないボランティアや数を稼ぐだけのインターンシップに参加して、社会への貢献度をアピールしようとしたり。

そのように見繕った回答を用意し、同じ髪型をして、スーツを身に纏って、たった数十分の面接を繰り返していく中で、自分の将来が決められていく。

このシステムが変わらない限り、学生は自分を隠したまま、そして面接官は本質を見抜くことができないまま、新しい人材が採用されていくのです。

こうして繰り返されていく就職活動は、どうしても闇深いものであると感じてしまいました

印象的な言葉

面接をやるにはやるけど人を見極めることなんてできないから、おかしな学生が平然と内定を獲得していく。

引用:「六人の嘘つきな大学生」浅倉 秋成 著

この一文を読んだとき、確かにそうかもしれないと思った同時に、学生側と人事側のどちらの顔も浮かびました。

自分がある程度、会社員として社会経験を積んできたからかもしれません。

各企業が独自の方法を用いて選考を行ったとしても、学生と会社の相性をたった数回の機会で見極めるのは、やはり難しいものだと思いました。

映画

2024年11月22日に映画が公開予定です。

映像化されることにより、臨場感のあるディスカッションシーンを楽しめるのではないでしょうか?

まとめ

『六人の嘘つきな大学生』はこんな人におすすめ!
・スリリングで先が読めない展開を楽しみたい
・登場人物の心理描写や人間関係に興味がある
・競争や試験、面接のプレッシャーに共感できる

最終選考で起こる事件とは?6人の中で犯人は一体誰なのか?そして、真相を知ったときの彼らの行動は?

先の展開が気になってしまい、一気に読み進められる魅力的があり、満足度がとても高かったです。

前半と後半で印象が変わるストーリーの巧妙さと、様々な伏線を回収していく面白さが詰まった作品でした。